FIREの基礎と主要概念
FIREナンバーの計算方法: なぜ「年間支出の25倍」なのか
2026-08-31
FIREについて調べ始めると、ほぼ誰もが数分以内に「年間支出を25倍すれば目標額になる」という定番のルールに出会います。しかし、この25という数字がどこから来ているのかを立ち止まって考える人は意外と少ないものです。これは見過ごせない問題で、この数字を絶対不変の定数として鵜呑みにしてしまうと、自分自身のリスク許容度や引退までの期間、居住国の税制に合わせて正しく調整することができなくなってしまいます。
25倍という倍率は、想定した取り崩し率の逆数に過ぎません。1を0.04で割ればちょうど25になります。仮に30代や40代で早期退職し、資産を50年以上維持する必要がある人が、元の研究が検証した30年という期間よりも保守的に、取り崩し率を3.5%と想定した場合、倍率は約28.6倍まで上がります。さらに3%まで下げると約33.3倍にまで大きくなります。支出額がまったく同じ二人でも最終的なFIREナンバーが大きく異なることがあるのはこのためです。両者は支出について意見が食い違っているのではなく、どれだけの市場リスクを受け入れるかという前提が異なっているだけなのです。
具体的な例で見るとイメージしやすくなります。年間400万円を退職後の支出として計画している人の場合、標準的な25倍(取り崩し率4%)の前提では約1億円が必要ですが、28.6倍の前提では約1億1,440万円、33.3倍の前提では約1億3,320万円が必要になります。取り崩し率の前提の違いだけで300万円以上の差が生まれる計算です。ここに貯蓄率の効果を重ねるとさらに影響は大きくなります。実質年利6%を想定した場合、貯蓄率を25%から40%に引き上げると、同じ1億円の目標に到達するまでの期間が約10年短縮される可能性があります。これは貯蓄率が高いほど資産形成のスピードが速まると同時に、FIREナンバー算出の基準となる支出水準そのものも低くなるためです。
FIREナンバーを計算する際に人々が最もよく犯す間違いは、倍率そのものよりも支出側の見積もりにあります。退職後に実際に変化する項目(通勤費や企業年金の拠出はなくなる一方、医療費や旅行費用は逆に増える可能性があります)を反映せず、現在の家計予算をそのまま使ってしまうと、予測しにくい方向に誤差が広がります。もう一つよくある間違いは、屋根の修繕や車の買い替え、結婚式といった不定期の大型支出を除外し、毎月一定の生活費だけを想定してしまうことです。この場合、退職3年目あたりで突然数十万円単位の請求が来て慌てることになりかねません。三つ目の間違いは、税引前の所得額を基準に計画を立てることで、実際に取り崩す際に必要となる税引後のキャッシュフローとは差があるため、居住国の税制によってはFIREナンバーがかなり過小評価されてしまう可能性があります。
自分のFIREナンバーを最終的なものとして扱う前に、簡単なチェックリストを確認しておくと良いでしょう。習慣的に4%をそのまま使うのではなく、自分の実際の退職期間に合った取り崩し率を使っているか確認すること、現在の予算ではなく退職後に見込まれる支出を基準にすること、毎月一定の支出だけを想定せず不定期の大型支出への余裕を持たせること、税引前の数字ではなく居住国の税制を考慮した取り崩し後の実質手取りを基準に計算すること、そして一度計算して終わりにするのではなく、支出計画や市場の前提が変わるたびに定期的に見直す習慣をつけることです。